FPいわかみ
お役立ちコラム
高額療養費制度を解説します
白血病薬「キムリア」の保険適用をうけて
5/15付で白血病など血液のがん治療に使用する薬剤「キムリア」の保険適用が認められました。
投薬は1回で済むとのことですが、薬価は3,349万円と国内で保険適用となっている薬では最も高い価格になるとのことです。
高い効果が見込まれる新しいタイプの薬ということで、白血病の治療で既存の抗がん剤が効かなかった患者さんにとっては、大きな朗報だと思います。
キムリアに関する報道で、「保険適用になったことで、高額療養費制度を利用すれば、自己負担額は数十万円程度で済む」との内容がされていました。
改めて、高額療養費制度について整理しておきたいと思います。
▮健康保険制度のキホン
日本では、すべての人が健康保険に加入することとなっています。
健康保険には3種類あります。
①国民健康保険
②全国健康保険協会による健康保険(協会けんぽ)
③健康保険組合による健康保険
①は自営業者等の人は加入する都道府県が主体となって運営する健康保険です。
②は中小企業等の勤務者が加入する健康保険で、中央組織である全国健康保険協会と各都道府県の支部により運営されています。
③は大企業等の勤務者が対象で、企業(あるいは同業種の複数企業)ごとに設立された健康保険組合が運営しています。
全ての健康保険は国が定めた法律のもとで運営されていますので、多少の違いはありますが、基本的な内容は共通しています。
今回のテーマである高額療養費制度も3種類に共通の制度です。
▮高額療養費制度とは?
病気にかかって保険が適用される治療を受けた場合、自分で負担する金額は治療にかかった総額の20%または30%(自己負担割合)で済みます。残りは、さきほどの全国健康保険協会などの運営者が病院に払ってくれます。
負担割合の「20%または30%」は原則年齢によります。
以下、70歳未満の現役で仕事をしている人を前提に、「30%」として進めます。
負担割合が30%と一部負担で済むとはいえ、それが何日も継続したり、今回のキムリアのように高額治療となる場合は、相当な金額の負担となってしまいます。
そこで、負担額の上限を決めておいて、1カ月の間の負担額の合計が上限を超えてしまった場合には、超えた分を高額療養費として支給して貰えるのが高額療養費制度です。
つまり、どれだけ治療をうけても、1カ月あたりの自己負担額には上限がある、ということです。
▮自己負担の上限額
上限額は収入によって5グループに分かれています。
最も上限額が高い(=自己負担額が大きくなる)のは、標準報酬月額が83万円以上(月収がおおよそ80万円以上)のグループで
上限額=252,600円+(医療費総額-842,000)x1%
で計算します。
ここで、医療費総額ですが、30%で一部負担した金額ではなく、治療にかかった総額です(100%分)。外来での治療も、入院での治療費も含めます。世帯で家族全員分を合算して構いません。(但し、30%分の負担額が21,000円未満の治療費は含めない)
例えば、夫婦2人世帯で、ある月に夫が入院と手術で45万円(医療費総額は150万円)、妻が外来の治療で3万円(総額は10万円)を払ったとしましょう。
この世帯のこの月の上限額は
252,600円+(1,600,000-842,000)x1%=260,180円 となります。
既に480,000円を病院に支払っているので、480,000-260,180=219,820円が高額療養費として後日支給(還付)されます。
キムリアの場合を計算してみましょう。
上限額=252,600+(33,490,000-842,000)x1%=579,080円
キムリアの治療を受けた病院に3,349万円の30%=10,047,000を払っていたとすれば、後日に9,467,920円が還付されます。(事前に高額となることが分かっている場合は、限度額適用認定証を取得し病院に提示することで、最初から上限金額の支払いで済ませることが可能です)
▮各グループの上限額
上限額は収入によって5グループに分かれていると書きました。
最も上限額の大きいグループの上限額の計算は上記の通りです。
他のグループの上限額の計算方法は次の通りです。
〇標準報酬月額53万円以上~83万円未満
167,400円+(医療費総額ー558,000円)x1%
〇標準報酬月額28万円以上~53万円未満
80,100円+(医療費総額ー267,000円)x1%
〇標準報酬月額28万円未満 : 57,600円(定額)
〇市町村民税非課税者等 : 24,600円(定額)
〇一定の市町村民税非課税者 :15,000円(定額)
▮多数回該当や高額介護合算療養費制度もある
今回のコラムでは詳しい内容は省略しますが、高額療養費の支給をうけてもなお、数十万円を何カ月にもわたって負担することになるケースもあります。
こういった場合は、高額療養費の多数回該当という制度があります。
過去12か月に間に高額療養費の支給が3か月以上あった場合は、4ヵ月目は上限額が引き下げられる制度です。(標準報酬月額83万円のグループでは、上限額が140,100円の定額となります)
また、高齢者になると介護と医療を同時に必要となる場合も少なくありません。高額介護合算療養費制度では、介護のかかった費用と医療にかかった費用を合算した上で、負担上限額が設定されます。